
松井修三の
思ったこと、感じたこと
機械換気の必要性
投稿日:2014年9月28日

(窓開け換気の一例。昨日見た分譲住宅)
ロンドンから電車で20分ほどの郊外にある人気の住宅街、EALINGに建つ戸建てとセミデタッチトハウス(二戸長屋)を地元の不動産業者に案内してもらった。
価格は、なんと1億5千万から2億円もする。今年はすでに30%近い値上がりで、まだまだ上昇するだろうとのこと。
チラシを見ると、両方ともエネルギー効率ランクでは、下から2番目と3番目の中間、つまりEとFの中間に評価されている。
「換気はどうされていますか?」
と尋ねると、業者は「特別なにもしていない。必要なときは窓を開ければいい」と、なんでそんなことを聞くのだと言わんばかりの調子で答えた。
「機械換気に関心を持つ客はいないのですか?」
さらに質問するとにべもなく「一人もいない」とのことだった。
案内された家は、かたや築100年、かたや60年以上のレンガ積みの典型的なイギリススタイルだった。
両方とも売主(住人)のお人柄がすばらしく、内部は、昨日見学した分譲住宅のモデル棟よりも見応えがあった。家具調度品のセンスも素晴らしく、何よりも驚かされたのは、その整理整頓ぶりだった。
ベッドメーキングなどは、一流ホテル以上に見事だった。
最初の家で、「これほど部屋を美しく整えるのは、どなたがなさるのですか?」
と尋ねてみたらご主人が、
「すべてはワイフがやります。私は、もっぱら庭の手入れと、家庭菜園が担当です」とのことだった。
こんなに家の内部をきれいにしておけたら、人生が違ったものになるかもしれないと思いつつ、リビングに入った。
庭に面した両開きの大きな窓が全開になっており、ベッドルームの窓は、ほとんど開けられていた。
それを見て「だからなのか」と合点した。
玄関を入った瞬間に想定していた生活臭が思ったほどなく、かすかに芳香剤が匂っていた。築60年以上も経って、自然換気となればどうしても生活臭がしみついてしまう。それを紛らわすためには芳香剤が必須になるようだ。
芳香剤は化学物質の一種であり、好き嫌いがある。臭いというものは、ごく微量な状態がかえって気になるものだ。
それ故に、どうしても換気が気になってしまう。
トイレを見て驚いた。
壁の上部の換気扇が外され、直径10センチほどの穴が開いたままの状態になっていた。これでは、排気も給気もままならないはずだ。
換気は、両家とも「窓開け換気」である。
外気はきれいなものと信じ、土埃、高温多湿・低温少湿な気候に悩まされることがなく、蚊に刺される心配もなく、防犯に対する心配も少ないとなれば、機械換気の必要性は理解され難いだろう。
どうやら日本のように、ホルムアルデヒド・トルエンなどの有害な化学物質が問題化されるたこともないようだし、カビやハウスダストの有害性も心配されず、越境大気汚染もない。
「窓開け換気」で十分だと考えるのも頷ける。
もし、我々が住んで窓を閉め切ったらどうなるだろう?
想像しただけで、生活臭に耐えられなくなるのは明白だった。
国は、省エネとCO2削減を目指してラべリング制度を推進しているが、住み心地に一番影響を与える「換気」はすっかり置いてきぼりになっている。
その結果、新築にせよ中古にせよ、室内空気質は実に悪い。
機械換気を疎かにするということは、住む人の健康に対する配慮を欠くことに等しい。それを疎かにした家を、100年以上長持ちするからといって礼賛するのはいかがなものなのだろうか。
自画自賛と言われるかもしれないが、「涼温な家」の空気の気持ち良さに優る家は、イギリスにはないように思える。
帰りに同じ街にある荒川さんの家に立ち寄って、お茶をごちそうになった。料理好きな奥さんが、お孫さんたちのためにと手作りしたおまんじゅうをいただいた。
実においしかった。荒川さんの家も窓開け換気である。午後5時、外気温21度、湿度55%だったがすでに蓄熱暖房機が働いていた。
歓談の最中、奥さんが言われた。
「あなた、もう窓を閉めてください」と。

- 松井 修三プロフィール
- 1939年神奈川県厚木市に生まれる。
- 1961年中央大学法律学科卒。
- 1972年マツミハウジング株式会社創業。
- 「住いとは幸せの器である。住む人の幸せを心から願える者でなければ住い造りに携わってはならない」という信条のもとに、木造軸組による注文住宅造りに専念。
- 2000年1月28日、朝日新聞「天声人語」に外断熱しかやらない工務店主として取り上げられた。
- 現在マツミハウジング(株)相談役
「いい家」をつくる会代表 - 著書新「いい家」が欲しい。
(創英社/三省堂書店)
「涼温な家」
(創英社/三省堂書店)
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