第5回 やわらかさが発揮する温かさ
昨日、新幹線(マックスとき)に乗って新潟へ行った。
前の座席の下側には、足を乗せるためのバーが用意されていた。車内は、冷房が効きすぎていて足元が寒いので毛布を掛けていたのだが、靴を脱いでそのバーに乗せている足裏が冷えて気になった。しかし、そこに足を乗せないと椅子を倒して寝ている体が安定しない。
うとうとすると、土踏まずに触れているバーの冷たさが気になって目が覚めた。観察してみると、そのバーは金属製で薄いゴムで皮膜されていた。それがエアコンで冷やされて、足の裏から熱を奪っていく。仕方が無く、足の裏も毛布でくるんで、やっと不快さを忘れることができた。
新潟では、「いい家をつくる会」の会員さんが建てた家を見学させてもらった。すべてがムク材で、木組みの贅沢さと美しさは、豪農の家として有名な伊藤邸、渡辺邸などを模範としつつ、現代的な明るさと合理性を加味していて見事なものだった。
その家の玄関ホールでご主人さんと立ち話をしていた。そのとき私は、足の裏に不思議なほどの温かみと優しさのようなものを感じていた。
しばらくして、続きの食堂に移ったのだが、すると私の足裏は、列車の中で感じた冷たさを思い出した。
「これはどういうことなのだろう?」
私は、もう一度ホールに戻った。
「違う!」
温かみがまるで違ったのだ。
ホールの床は、5センチ厚の杉板で、食堂は花梨(カリン)であった。私は、工務店主が持っていた表面温度測定機を借りて当ててみた。すると、いずれの床も温度は25度だった。
「不思議だ!」
「体感では、2〜3度は違っている!杉板のほうが温かく感じる」
私は、言葉を失った。
同じ木材でありながら、同じ温度でありながら、熱伝導に違いがあるのだろうか?
工務店主が言った。
「やわらかさの違いだと思いますよ。カリンは、杉よりもはるかに硬いですから」と。
「やわらかさ?」
「そこの節の上にのってみてください」
工務店主は、いくつもある直径10センチぐらいの大きさの節を指差した。
「ウワーッ、本当だ!節のほうが冷たく感じる!」
同行した社員が、子供のように感激して叫んだ。
以前に、小学校1年生を長女とする3人姉妹のいるお客様の家を造ったのだが、床材はご主人の強い要望で「さわら」が選択された。
私は、その性質がやわらか過ぎることを心配した。そして、汚れやすいことも。
お引渡しをしてから3年近くたった床は、案の定、申し訳ないほどに汚れとキズが目立った。しかし若いご夫妻は、満足げにこんなことを話してくれた。
「引渡しを受けた日の感激を今もはっきりと覚えています。この床が、まるで子供たちの肌のように美しかった。今は、こんなに汚れてしまいましたが、子供たちにとっては、とっても優しくて、肌に合うようなのですよ。下の子などは、冬でも床にごろんとして眠ってしまうことがあります」
帰りの新幹線も、行きと同じ「マックスとき」だった。今度は靴を履いたままでバーに足を乗せながら、見学してきた家々を思い浮かべていた。
そこには、やわらかさ、温かさ、やさしさ、そしてさらに強さがあった。そのような家を、真摯に造り続けている工務店主さんと仲間でいられることを、私はしみじみとありがたく思った。
2003年7月31日
松井 修三
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