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第6回 山形の家

 

 家は、その土地、その家族に合うように造られるべきだと、私はそう思っている。
それを見事に実現している家がある。


 過日、山形市へ行ってきた。
エアコン無しという体感ハウスを見学するために。
午後12時過ぎに山形の駅前に立つと、空は曇っていたのだが思っていた以上の暑さに包まれた。日本の最高気温40.8度は、その山形で記録されたという。そこで、エアコン無しで体感ハウスをオープンしている「いい家をつくる会」のメンバーがいるのだ。

夏に体感ハウスに来られるお客様は、当然のことながら涼しさを期待している。玄関ドアーを開いた瞬間に涼感が無かったら、説得力はしぼんでしまう。だから、住宅展示場の家々は、どこもエアコンをフル回転、もしも玄関ドアーが閉まっていたら凍え死んでしまいそうなほどにギンギンに冷やしている。
エアコンの数が、70坪前後の広さの家で10台以上というのも珍しいことではない。

さてその家は、駅から車で15分ほどのところにある少し小高い分譲地の一角に建っていた。広さが約55坪ほどあって、8箇所の床下ダンパーは全てが開放状態で、窓は全て閉まっていた。外気温は、32.5度、湿度78%。
玄関ドアーを開けて一歩入った瞬間に、私と同行者は叫んでしまった。
うワーッ、涼しいッ!」
二階を通過して、一挙に小屋裏へと上がった。
不思議なほどに、涼しい・・・」
そしてそこに見たものは、なんと、自然方式の小屋裏ダンパーであった。エアコンはどこにも見当たらない。一階に下りた。表面温度測定機は、床24〜5度、壁も同じく、吹き抜けの天井が26度を表示した。スリッパを履かずに話し込んでいると、15分もしない内に冷え性の私は、スリッパを履きたくなった。
床下の温度は22〜23度。
この土地の気候に、ソーラーサーキットの家が実に適しているのですよ」
工務店主は、そう説明してくれた。
日中は暑くても、朝晩は10度前後もスーッと気温が下がります。だから湿度は自然に任せても、外断熱にして二重の通気層をしっかりと確保すれば、このようにエアコン無しでも暮らせます」

すぐ近くに、エアコン無しで実際に暮らしている家があるから案内してくれるということになった。
その家は、ダンパー開放で、窓も開けられていた。
しかし、玄関を入ると体感ハウスと同質の涼しさを感じた。窓を開けているにもかかわらず、床の表面温度は25〜26度。二階の寝室も同じだった。
凍傷を経験したことがあるというご主人は、
私は、寒さアレルギーで、老後は温暖なところに住みたいと願っていたんですよ。それが、ふとした縁で松井さんの本を読み、いい工務店に巡り会えたおかげで、この地に終の棲家を建てました」と、温かな笑顔で話された。
寝室には、ご主人が描かれたという奥様のポートレートが飾られていた。奥様は、チェロの演奏者。ピアノが二台。
この家では、楽器の音色がよくなります」と、バイオリンを手作りするというご主人が話してくれた。
うーん、これならエアコン無しで十分快適に過ごせる・・・」
私は、二軒の家を体感してそう納得した。


 東京駅には午後6時過ぎに戻ったのだが、駅のホームには30度を超えるような暑さがへばりついていた。
その夜遅くに、私は温度・湿度のデータを観察するために体感ハウスの小屋裏にいた。東京では、このところ一日の平均気温が30度近くもある日が続いている。

毎年のことながら蒸し暑い日が続くと、ii-ie.com の「談話室」には、インナーサーキットが涼しい効果に役立つのかと疑問を呈する意見が目立つようになる。そして、むしろマイナスに作用するというライバル側の書き込みが優勢になるのだが、一日の平均気温が30度近くにもなる日が続くようなところでは、ダンパーを閉じてエアコンを活用することだ。
インナーの内部で冷やされた空気は、下降して床下を冷やす。その冷気が床の熱を奪って、山形の家のような効果をもたらしてくれる。

夏のソーラーサーキットの家は、全自動的に全国いずれの土地、どの家族にも快適をもたらすものではない。「その土地、その家族に合うような快適さが得られ易い」ところに値打ちがあるのだ。
もしもこの世にエアコンが無いとしたらと想像してみると、そんな日にも汗をかかずに小屋裏でデータ観察をしていられるのは、正しくインナーサーキットのおかげだと感謝したくなる。

まもなく、山形の気候のように、朝晩と日中の温度差にメリハリが生じる季節になる。するとインナーサーキットの効果がはっきりと分かるようになる。私は、一階に下りた。そして、いつものように階段下の床下に入った。ダンパーからは、まだ冷めやらぬ風が勢いよく入ってきていた。すのこの上にあぐらをかいて、しばし風に吹かれていると旅の疲れがスーッと消えていくように感じた。

2003年9月13日
松井 修三

 

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