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第26回 森 光子さん


 本日より仕事がスタートし、夜には社員だけの新年会が行われた。
社員がそれぞれ今年の抱負を語ったのだが、その最後に立った社長は、「今年は六段筋をめざすぞ!」と言った。
皆、キョトンとしている。
「あの、腹筋のことですか?」と誰かが聞いた。
「そうですよ」
社長は涼しげに答えた。会場には、とても無理でしょうという雰囲気が漂う。
それを裏付けて見せようとするかのように、「部長ならありますよ」という声がかかった。みんなから求められて工事部長が腹筋を披露した。
おおっと感嘆の声が上がる。6段筋ではないがはっきりと2段の筋肉が見えた。すると、
「私は胸なら、自信があります」と、はつり仕事で抜き出た才能を持つ監督が負けずと胸を披露した。筋肉の張った分厚い胸板である。やんやと喝采が上がった。
笑顔と活気で包まれた新年会がお開きとなるとき、社長が挨拶した。

「私は、森 光子さんの大のファンです。私の傍らにもし森さんが立たれたら、なつこさん(社長の奥さん60代)よりもお若く見える。久保田さん(40代)よりも若く見える。きっとSさん(20代)と同じくらいに見えるのではないかと思います。森さんはたしか今年86歳です。
森さんの舞台はなんでもロングランしますね。
放浪記」を皆さん、知っていますか?
昭和36年に開演されてから、42年間に渡って1700回以上、森さんは主役を演じ続けました。
舞台では、十代の乙女からおばあさんまでを演じ分けるのです。それぞれの年代で立ったり、座ったりを何回もしなければならならない。その何気ない仕草に歳が出てしまわないかといつも気になっていた。
そこで60歳を過ぎて、私がこれまた大のファンである野茂投手のトレーナーだった人にアドバイスを受けたんだそうです。その方が言うのには、筋力は鍛えれば退化することを止めることができるのだから、ヒンズースクワットと自転車こぎをしなさいと。
それからの森さんの努力がすごい!
今も、スクワットを1日に150回、自転車こぎは30分、それも7という負荷をかけてやるのだそうです。それは山道を登ると同じぐらいの大変さですよね。
スクワット 皆さん、スクワットを150回もできますか?
普通にはがんばってもせいぜい50回、自転車こぎは負荷5程度でも10分でしょう。
それをどんなに具合が悪くても、毎日決して欠かさず実践するというのです。
「放浪記」には、舞台ででんぐり返しをする場面があるのだけれど、80歳を超えると怪我をしたらどうしよう、骨折したらどうしようという不安があるはずですよね。
そういう不安を乗り越えるには厳しく自分を鍛えるしかない。
なぜそこまでできるのか、という質問に対する森さんの答えが素晴らしいんですよ!
「舞台に立つ以上、プロとして演じきることがお客様との約束なのです。舞台に上げれば自分の年齢など関係ありません。身体を鍛えておくことがお客様に対しての約束事なのです」
いいですねー。私は、そういうことを言える人が大好きです。そこで私は、6段筋に挑戦する決意をしたのですよ。来年の今月今夜、皆さんにせめて2段筋をお見せすることを約束しましょう。みなさんも今年は体を鍛えよう。怪我をしたり、病気で休むということは、お客様との約束を破ることです。毎日、元気で精一杯働くことがお客様との最低の約束です」

本日67歳を迎えた社長からの熱いメッセージだった。みんな社長の話に聞き入り、心が一つになっていた。仕事をするプロとしての心構えを再確認し合って、今年も頑張っていこうという気構えがしっかりと出来上がった。
お開きで立ち上がろうとするときに、私は森光子さんのように立つことを思い描いていたのだが、思わず「よっこらしょ」と掛け声をかけていた。
「これではいけない!」
真剣に心身ともに磨き上げなければ、と覚悟を新たにした。

2006年1月5日
久保田紀子


 

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