第46回
家庭における排出権取引
温暖化による地球の危機が午前12時に本格化する。
我々は現在、午後11時をまもなく過ぎようとしているというのに回避のための策を見出せないでいる。
それどころか地球上ではみんなが、より便利で快適な暮らしを求めて資源を奪い合い、温室効果ガスの排出量を増やし続けている。
私は、The 11th hourに家づくりをしていると認識することにした。「住む人の幸せを心から願う」ということは、お客様の子々孫々の幸せも願うということなのだから、地球の危機に加担することは何としても避けねばならない。
そのために、今年から実行したいことが二つある。
一つは、「マツミの家」の構造・断熱の方法・経費などをCO2排出量に置き換え、社員・大工・職人の全員が温暖化の危機意識を共有する。
二つは、「マツミの家」のエネルギー効率を測定し、証明書を付ける。
上記の内容を、久保田さんに、どう思いますかとメールした。
まもなくして電話があった。
「とても良いことだと思います。
私は、なるべく早くに太陽光発電と太陽熱温水装置を設置してもらって、とりあえずゼロ光熱費に挑戦してみたいと思っていますのでよろしくお願いします」
「ゼロエネルギーではなく、セロ光熱費を目指すのですね」
「はい。昨年、ドイツやオランダで視察した無暖房・無冷房の家での暮らしは相性が合わないと思います。私は、ストレスを感じるような省エネはしたくありません。ほどほどにエネルギーを使えば、こんなに快適な住み心地が得られる家に住んでいるのですから」。
久保田さんは、光熱費を自然エネルギーでまかなえる範囲に抑えるようにしたいと言う。そのためには高校生の二人の子供たちの理解と協力が必要なので話し合ったそうだ。
協力が不十分な場合は、小遣いから差っ引く。その意見に対して、パソコンの使用時間が長いので差し引かれる金額が増えると予想される長男から猛反対を受けたという。
彼が言うのには、「そんなちまちました節約をしたところで、中国やインドがこれから爆発的にCO2を排出するに決まっている。
排出権取引などという新種のビジネスを盛んにして数字上のつじつま合わせをしたところで温暖化防止に役立つはずがない。
家の中にまで、排出権取引のような考えを持ち込まないで欲しい」と。
返事に窮した、と久保田さんは笑う。
私は感心して言った。
「彼の意見はおもしろいですよ。家庭の中まで排出権取引の場にしないで欲しい、とは」
そして考えた。
そうだ。国や企業だけでなく、家にも排出枠を設定するようにすればいい。 枠が余った家は、その分を太陽光発電の余剰電力と同じように売却できる。枠を超える家は、それを買い取らなければならないのでさらにランニングコストが高くなり、省エネ改修と積極的に取り組むようになる。
日本でも、EUの「エネルギーパス」やアメリカの「リードH」のようにエネルギー効率の表示が義務化されるのは必然だ。
省エネであることが当たり前になると、見直されるのが住み心地だ。省エネのレベルが同じ程度なら、住み心地の良い方がいいし、住み心地が良いのであれば、省エネのレベルは多少下がってもいいという具合に。
冷暖房を節約し、パソコンの使用時間を減らし、照明のスイッチを消し歩き、ひたすら省エネに努める生活は窮屈だ。地球温暖化防止という大義のために、造る側も住む側もCO2排出削減に努力するということなら、やり甲斐があるはずだ。
CO2の排出量を金額に置き換えて、小遣いの額で調整を図るという久保田家の試みに、私は多大な興味と関心を引かれた。
2008年1月3日
松井 修三
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