思ったこと、感じたこと

2010年9月7日

第67回  イギリス最初の居住可能なゼロカーボンハウス訪問記


 先進国で初めてイギリス政府が2007年7月に“2016年以降に建設される新築住宅は全てゼロカーボンハウス(Zero Carbon House)とする“との方針を発表して以来、イギリスの建築業界では数種類のゼロカーボンハウスの実験棟やモデルハウスが建設され、関係者への公開が行われている。しかし、これらはあくまでもデータ取得を目的とした実験棟であり、住宅で最も大切な“住み心地”の検証はなされていないのが現状である。
 

 この様な状況の中、イギリス人建築家リチャード・ホークス氏は古くから伝わるヨーロッパの伝統工法と最新のハイテク技術の建材や設備そして可能な限り CO2排出削減に貢献するリサイクル材の活用と地産地消を原則とするイギリス・ケント州産の建材を使い、過去・現在・未来を融合した居住可能なゼロカーボンハウス(注1)を今年2月ケント州に完成させました。完成後、ホークス氏は自らが設計したこのゼロカーボンハウスに家族と共に居住し、積極的に“住み心地”の検証を進めています。これはイギリスでは最初のことであり、その成果が大いに期待されています。

注1)ゼロカーボンハウスとは、年間のCO2排出量をネットでゼロに抑えた住宅
 
 

 今年の夏、イギリス・ケント州に完成して半年を経過したゼロカーボンハウス “Crossway クロスウエイ(注2)“に設計者ホークス氏を訪ね、お話を伺うことができました。

注2)イギリスではカントリーサイドの住宅に名称を付けるのが一般的で、この住宅を“Crosswayクロスウエイ“と命名

  

  8月2日、イギリスも夏真っ盛りとは言え、日本の連日35℃を超える猛暑から想像も出来ない気温25℃、湿度50%の天気の中、完璧に整備された道路をロンドンから南東に約2時間の快適なドライブでした。ケント州の豊かな穀倉地帯の真ん中に茶色のドーム状のクロスウエイの佇まいが周りの緑に溶け込んでいる様は典型的なイギリスのカントリーサイドの風景でした。クロスウエイに到着し、玄関のチャイムを鳴らすと奥様が2歳のお子さんを抱いて現れ、続いて奥様のご両親が生まれたばかりの赤ちゃんを抱いて現れ、なんとも賑やかな対面となりました。居間に通され、日本やイギリスの世間話の後、English Teaを振舞われたときはホットしました。ホットしたのも束の間、この住宅の設計者でありホークス建築設計事務所主宰のリチャード・ホークス氏が現れ自己紹介の後、「遠い日本からこんなイギリスの田舎に良く来てくれた」と言われ、しばらくTeaを飲みながら日本の気候や食べ物、住宅事情等の話で盛り上がりました。この後、ホークス氏の案内でクロスウエイの構造やゼロカーボンの手法等について説明をうけました。
 
 

 まず設計コンセプトは「ヨーロッパに古くから伝わる伝統の工法に地元ケント州産の建材と最新のハイテク建材や設備を使い、過去・現在・未来を融合させ、”住み心地の良い住宅である“ことを念頭においたゼロカーボンハウスを目指した」と熱く語られました。

 

 伝統の工法はテイブレル・バルテイング(注3)と呼ばれているドーム工法で、地元ケント州産のタイル26,000枚を使った4層構造(120mm厚)とドームの居住空間の天井を占める部分には防湿材と土壌が300mm厚で盛られ、これが断熱材となるGreen Eco Roof(植栽エコ屋根)となっており、このドーム型屋根には季節の花が咲き乱れる不思議な風景を創り出していました。

注3)14世紀にスペイン・バレンシア地方で発祥した無支柱ドーム工法
 
 

 更に、ゼロカーボン仕様を達成する為に、建材の製造時に発生するCO2の削減が出来るリサイクルマテリアルの活用は大きなポイントとなり、特にリサイクル古新聞紙を使った断熱材やリサイクル・クラッシュボトルをコンクリートのべた基礎の上に細かく砕きセメントと混ぜて磨き上げた1階の床は圧巻でした。玄関ホールのリサイクル・古タイヤを使った床材も見事な仕上がりでした。外断熱の高断熱・高気密構造、窓は全て3重ガラス構造で、特に南側は開口部を思いっきり大きく取り、ブラインド内蔵の3重ガラスを使い、採光とリサイクル・クラッシュボトル床への蓄熱を目的とし、内壁や天井に張られた特殊な蓄熱・放熱材と共に建物のサーマルマス(注4)を増やすことによって室温を安定させることが出来、24時間熱回収型換気システムと相まって快適空間を作りだしている。

注4)日本では蓄熱容量またはヒートマスと呼ばれている
 
 

 一方、住宅に必要なエネルギーの大半を創り出す元はPV-Tと呼ばれる太陽光発電・熱回収複合システムが使用されており回収された熱は特殊な蓄熱材が封入された蓄熱槽に貯えられ、浴室やキッチン、手洗いの温水需要に対応している。暖房設備は無く、人間やテレビ、パソコン等の電気機器の発熱で十分にまかなえるとの事ですが、しかし日照時間が極端に短くなる冬の厳寒期の補助熱源として、ウッドチップを燃やすバイオマスボイラー(11kw相当)が設置されています。電力使用量の大きいIHクッキングヒーターや夜間の照明、テレビ、パソコン、冷蔵庫等は既にイギリスの電力網に組み込まれている民間のグリーン電力と呼ばれる大規模な風力、バイオマス、水力、太陽光等で発電された電気が使われる為、CO2の排出はネットでZero(ゼロ)となっている。

  

 延床面積330屐3階建のクロスウエイの間取りは、1階の真空断熱を使った玄関ドアから入るとリサイクル古タイヤを使った玄関ホールがあり、南側は居間と台所、東の端が食堂、西の端はホークス氏の事務所となっています。2階へは玄関ホールからの階段でつながっており、この階段もドーム屋根と同じ地元産タイルの3層構造でもちろん無支柱で、手すりは木廃材、欄干には地元産の漁業用の丈夫なロープが使われている。2階の床材は全て完璧に磨き抜かれた竹材で見事な仕上がりを見せています。廊下を中心に三つの家族用寝室と廊下の東端には客用寝室があり、廊下の北側の壁が客用寝室のドアを兼ねており、来客時には廊下を塞ぐように大きく90度回転し、客用のトイレ・手洗い・シャワールームが出現する仕組みになっています。3階はとりあえず子供用のプレイスペースとなっていますが、あらゆる用途に使える余地を残しています。

  

 クロスウエイは居住できるゼロカーボンハウスとしてマスコミにも大きく取り上げられ問い合わせも殺到しています。今後、更に再生可能エネルギー関連設備の価格が下がれば、イギリス政府が目指す“ゼロカーボンハウス by 2016 ”のモデルになる可能性を秘めており、ケンブリッジ大学と連携した今後の活動が期待されています。
 
 

 今回、建築家のホークス氏にお会いして感じたことは、彼の並々ならぬゼロカーボンハウス建設への情熱でした。かつて勤めていたロンドンの建築設計事務所から独立し、同じくロンドンシテイで大手投資銀行のファンドマネジャーであった奥様と一緒にホークス建築設計事務所を設立し、果敢に難題に挑みながら、家族を大切にしているイギリス人若手建築家と情報交換ができた事と、完成させた居住可能なゼロカーボンハウスをつぶさに見学できたことは大きな収穫でした。伝統工法を尊重しながら、極めて大胆な発想で見事に完成させたクロスウエイは正にゼロカーボン技術の塊であり、蓄積された様々なゼロカーボンハウス造りのノウハウはイギリス、EUのみならず、きっと日本での居住可能なゼロカーボンハウス建設のヒントになるのではないかと思っています。
 
 

ゼロカーボンハウス “Crossway クロスウエイ“の概略
タイルドーム型屋根構造木造3階建、延べ床面積330屐4寝室
建設費用は約50万ポンド(約6500万円)
ゼロカーボン 仕様は
 ・外断熱・高気密・高断熱構造 
 ・外壁:古新聞紙300mm厚断熱 熱貫流率 0.15w/k以下
 ・一階床材:リサイクル・クラッシュボトル+防湿材

  熱貫流率 0.15w/k以下
 ・二階床材:竹材 
 ・ドーム型屋根:軽量タイル4層(120mm厚)+防湿材

  +土壌(300mm厚) 熱貫流率 0.13w/k以下
 ・窓:3層ガラス(ブラインド組込)
 ・玄関ドア:真空断熱構造(50mm厚)
 ・気密:高性能な特殊な気密シートを使用
 ・内壁:プラスタボード+羊毛遮音材

  一部に蓄熱・放熱材を使用
 ・玄関ホール床材:リサイクル古タイヤ
 ・キッチン天板:リサイクル古紙幣
 ・階段手すり:木廃材+地元産ロープ
 ・PV-T設備:太陽光発電・熱回収複合システム 26
 ・蓄熱層:特殊蓄熱材使用
 ・ボイラー:バイオマスボイラー 11kw
 ・地下雨水貯水タンク
 ・汚水浄化システム
 ・IHクッキングヒーター
認証関係
 ・イギリス・省エネラベル最高ランクA-A取得
 ・EU Passiv Haus 認証取得
ゼロカーボンハウス 設計開発協力
 ・ケンブリッジ大学建築学科
 ・スコッツウイルソン・エンジニアリング
 ・ケンブリッジ大学にてデータの一元管理
“住み心地”の検証
  設計者自ら家族と共に居住し、“住み心地”を検証中

                            平成22年9月7日

                   省エネコンサルタント 荒川英敏

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