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海外視察旅行記
世界に誇れる、
住み心地いちばんの家を目指して

2014年9月
イギリスフランスデンマーク
ロンドン・パリ・デンマーク編

ヨーロッパの機械換気の現状視察

イギリスのゼロ・カーボンハウス

イギリスのゼロ・カーボンハウス 1

今日はまばゆいばかりの陽光の下、2か所の「ゼロカーボンハウス」を訪問してみた。

Paddington駅から急行で20分のSlough駅でタクシーに乗った。ホンダ車だったが運転手さんは「私はホンダを信じている。絶対に壊れないからね」と自慢していた。

走ること10分ほどで、「Green watt Way」と称したゼロカーボンハウス建築場所に到着した。

ここは、2010年の秋にイギリスのガス電力大手会社と政府や建築研究団体が10棟の実験棟を建て、2年間のモニタリングを条件に賃貸したという。

現在は、モニタリングは終了し、不動産会社が買い取って賃貸をしている。

タクシーから降り立って見上げた家が写真のように窓が2か所開いていた。快晴のため、室内がオーバーヒート状態になったのだろうか?

同じように窓が開いている家が数軒あった。


そこで実際に暮らしている人にインタビューをさせていただいたところ、今日はたまたま開けているが、普段は閉めて暮らしているそうだ。

前に住んでいた家では、冬にも窓を開けて暮らしていたが、この家は夏の暑い時期に二日ほど開けただけで、閉めていても実に気持ちいい。冬は暖かく、とても快適だ。数日前に友人たちを招いてパーティ開いたが、みんながこの家はなんていう家なんだと感心していたと喜んでいた。他の人にもインタビューすると、同じような答えだった。とにかく、機械換気のある暮らしは、今までの家と比べたらとても快適だとのことだった。

フィルターの掃除はどのようにしているのか、と質問すると怪訝な顔をして「機械を見たこともないし、そんなことはしたことがない。管理会社の人が3か月に1度来てくれるから、そのときにやってくれているのだろう」と話された。

突然の訪問で、玄関先での話なので、聞きたいことはたくさんあったが遠慮した。


換気専門メーカーであるAir flow社のAlanさんが言っていた。「24時間の機械換気が正しく働く家に暮らした人は、必ずその良さを理解するはずだ」と。

まさしく、ここの住人の話はそのとおりだった。

イギリスのゼロ・カーボンハウス 2

次にはEaling駅から徒歩15分ほどの閑静な住宅街の一等地に新築中の物件を見学した。MVHR(第一種熱交換型機械換気)が入っているのは確かなのだが、あいにくとまだ作動していなかった。価格がなんと3億5千万円。EPC(エネルギー効率証明)は、完成検査を受けないことにはわからないが、たぶんトップランクされるだろうと不動産業者は言っていた。

窓の性能数値は不明だが、見た感じではU値1を下回る高性能なものだった。しかし、すべての窓枠に換気口がついていた。

この意味について、業者は「わからない」と肩をすぼめて両手を広げた。


イギリス政府は、2007年に2016年以降に新築されるすべての住宅をゼロカーボン仕様にする」と発表し、日本の住宅業界にも衝撃をもたらし、「低炭素住宅認定制度」ができたのだが、イギリスでは今のところ、不動産業者の「ゼロカーボンハウス」に対する関心は極めて低い。ということは、ユーザの関心が低いということなのではなかろうか。

「涼温な家」は低炭素住宅としての認定を受けられるが、もし、補助金や税制の優遇措置がなくなったとしたら、お客様がそれを望まれるかは疑問である。住宅の根源的な価値は、住み心地にある」という私の確信の「住み心地」を、「ゼロカーボン」に置き換える日は、まだまだずっと先のことだろうと思った。

Zero Carbon Hub
(ゼロ・カーボン・ハブ)

Zero Carbon Hub(ゼロ・カーボン・ハブ)

今日は、ロンドンの中心街にある「Zero Carbon Hub」を訪問した。「Hub」とは、総元締めという意味のようだ。

技術マネジャーのTassosKougionisとプロジェクトマネジャーであるRoss Holleronさんと2時間ほど会談した。


ゼロカーボンハウスは、熱交換換気(MVHR)を必須とするものだが、フィルターの掃除・交換に関する配慮がされていない。

室内空気質よりも省エネ・燃費の向上が国家的な要請となったとはいえ、維持管理がしづらい換気システムは、いずれ住人の健康を損ない、エネルギー節約の効果を帳消しにするばかりではなく、医療費の増大という不幸をもたらしかねない。

そこで、「いい家」をつくる会では、フィルターの掃除・交換がしやすいことを最大のテーマとして換気システムと取り組んでいる。


話を分かりやすくするために、備えられていたプロジェクターを使って、「センターダクト換気」と「涼温な家」のプレゼンテーションをした。一通りの説明を終えると、お二人が「よくぞここまで考えたものだ。フィルター掃除がアクセスしやすく、空気の分散のしかたが素晴らしい。非常に論理的で特に室内空気質に重点をおいている」と感心していた。


実はと、プロジェクトマネジャーがこんな話をしてくれた。

「最近のことですが、1年以上住んでいる3千所帯にアンケートしてみたところ、フィルターの管理をしている所帯は、5世帯しかなかったことが分かったのです。

これは、われわれがこれから直面する大問題です」と。

それに対して、私が言った。

「換気は、室内空気質と熱損失という点からとらえられているが、私はフィルターの掃除・交換を最重要視すべきだと考えている。フィルターは、換気装置と外気取り入れダクトの中間に必要なだけではなく、排出される室内空気が熱交換素子に入る手前にも必要だ。生活の仕方によっては、後者の方が汚れがひどい場合もある」


技術マネジャーが大きく頷いてから言った。

「2003年に、ヨーロッパは猛暑に襲われ、3万5千人が主に熱中症で死亡し、イギリスでは2000人以上が亡くなりました。

なんと、12日間も26度から37度の日が続き、夜も19度以上が7日間続いたのです。

その上、湿度も高くなりましてね。ですから、これからは温暖化防止対策がとても重要になります。

『オーバーヒーティング』対策もです。照明の熱を含め、生活の排熱、日射取得をどう減らすかです。古い家も断熱改修や窓の性能アップによって生じる問題は同じです。

この点からも、冷暖房機能を備えたエアコンとの組み合わせは、検討に値すると思いました。このシステムは、スーパーMVHRです」と絶賛してから、「But(しかし)」と続けた。

「イギリスで支持されるかどうか疑問です。なぜなら、MVHRですら拒否反応を示す人が多いのですから。これから、2016年に向けて産官学で啓蒙活動を活発化させなければと思っています」。


お二人とも、ダクトレス換気には否定的だった。互いに熱交換機械換気の普及に努めユーザーを幸せにできるように努力しましょう。と固い握手を交わしてきた。

湯たんぽ

湯たんぽ

必要なものがあってデパートに立ち寄った。

ふと見ると、写真のような「Hot Water Bottle」が目に入った。容器を包む様々なデザインが売りになっている。私が子供のころ風邪をひくと、湯たんぽを布団の中に入れてくれた母のことが思い出された。

私は、極度の冷え症なので、電気式の足温器をたまに使うことがあった。しかし、「涼温な家」にリフォームしてからは、一度も使っていない。


中国出身という30代と思しき女性店員に尋ねてみた。

「イギリスの家庭では、よく使われているのですか?」

「これからはシーズンで、買い求めるお客様が増えます」

「あなたは、使ったことがありますか?」

「はい、学生の頃ホームステイした家がとても寒いのに暖房を夜は止められてしまい、その代わりに湯たんぽが常備されていて、奥さんが、ここにあるようなカバーを手作りしてくれました。

「その家はどのくらい古い家でしたか?」

「ヴィクトリア時代の家だと、ご主人がいつも自慢していました」。


イギリスでは、築年数の古い家ほど価値があるとされているが、リノベーションされていない家では、一般的に寝るときは暖房を止めて、寒さをひたすら我慢しているようだ。構造が木造ではなく、地震もシロアリの被害もなく、腐ることがないから長持ちする。この事実を、日本では住み心地が良いからだと拡大評価する人たちがいるが、暑ければ窓を開ければいい、寒ければ湯たんぽと共にベッドインすればいいという暮らし方があってのことだと納得させられた。