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松井修三のコラム「思ったこと、感じたこと」

ダマされるな!「夢の屋上庭園」

読売新聞が、「木造住宅 夢の屋上庭園」を取り上げていた。

たいがいこういう記事は、メーカーとのタイアップ広告である場合がほとんどなのだが、「家庭菜園、バーベキュー、プラスワンリビング」などと夢をかき立てられると、建ててみたくなる人は多いのではなかろうか。

私は、造り手として止めておいた方が賢明だと声を大にして言いたい。

25年ほど前に屋上庭園を造ったことがあるが、大雨が降るたびにその家のことが心配になるのだ。


当時考えられた最高の防水工事をしたのだが、なにせ屋上の表面温度は、冬には放射冷却現象でマイナス10度前後から、真夏の炎天下では70度前後まで変化する。当然、下地板も変化するに違いない。防水層が切れることはないにしても、どこかにほんのわずかな隙間を生ずる可能性は否定しきれない。

最近の異常気象がもたらす風圧を伴う豪雨に見舞われたときが恐ろしい。合板は水を含むといとも簡単に腐ってしまう。いや、それだけではない。水は、上からだけでなく室内側からも襲ってくる。いわゆる内部結露だ。室内の水蒸気が防水層の下地板にせき止められ、結露するのを想像するとぞっとする。

そうならないように、完璧な防湿層(べーパーバリア)を施工したはずだか、万一雨漏れした時は、それが災いをもたらしかねない。住人が雨漏れに気付くのが遅れるからだ。

雨漏れと内部結露の相乗作用を受けると、合板はものの数年でボロボロに腐ってしまう。だから、断熱の方法をよく検討するとともに、室内側で内部結露の原因となる余分な水蒸気を排出する24時間の機械換気との組み合わせを検討してかからなければならない。


問題はそれだけではない。屋上は予想外に風当たりがきついものだ。

新聞は、ソファーでくつろぐ家族の写真を載せているが、この状態は無風に近いはずだ。強風が吹いたら、ソファーですら舞い上げられてしまう可能性もある。

使わないときは、ソファーにはカバーを掛けておくことになるのだろうが、風で飛ばされないように固定するのはかなり面倒だ。

しかし、それを怠ると露天に停めた車と同じで、三日もすると粉塵がねばっこく張り付いてしまう。そうなると、たまの別荘利用と同じで、掃除に始まって掃除で終わることになりかねない。カラスや鳥たちにとっても格好の遊び場になったとすると、糞害に悩まされることにもなる。

こうして、造る側としてマイナスを想像してみると屋上庭園は、心配だらけで気が重くなる仕事である。


何よりも、心配なのは大雪が降ったときだ。昨年のような記録的な大雪が屋上庭園に積もったらどうなるかだ。

構造計算をして耐力を確保しているといえども予期せぬ荷重で、防水層と出入り口周辺の構造との接点が切れてしまうことはあり得なくはない。木造は、大雪の重みで多少はたわむのだから。

それでも、「屋根と同等の価格で造れる」というような営業トークを魅力と思うなら、せめて植栽の種類を限定することだ。成長し、根を張る木は選ばない。根は、防水層を破る危険があるし、成長した枝葉は、近隣に迷惑を掛けることにもなりかねない。


維持管理については、夫婦で共同責任を負う覚悟が必要だ。また造る側としては、住人任せにしてはならない。維持管理されない屋上庭園は、手入れを怠った庭を想像すれば、その厄介さがすぐ理解できるであろう。

シロアリだって生息するかもしれない。

記者が書いているように、規制の撤廃や「防水技術」に頼るだけで安易に造ってしまうと、10年間の雨漏れ保証期間が経過した頃から、住人は維持費の増大と、掃除の負担で悩むことになる可能性が大である。維持管理の大変さは半端なものではない。

屋根職人と板金職人が不足しているからといって、防水工事だけで済む屋上庭園を、「夢の」と形容詞をつけて売りたがる造り手の魂胆を見抜くべきだ。

マスコミは、そのような魂胆に警鐘を鳴らしてこそ存在価値があるのだ。

松井修三プロフィール
  • 松井 修三 プロフィール
  • 1939年神奈川県厚木市に生まれる。
  • 1961年中央大学法律学科卒。
  • 1972年マツミハウジング株式会社創業。
  • 「住いとは幸せの器である。住む人の幸せを心から願える者でなければ住い造りに携わってはならない」という信条のもとに、木造軸組による注文住宅造りに専念。
  • 2000年1月28日、朝日新聞「天声人語」に外断熱しかやらない工務店主として取り上げられた。
  • 現在マツミハウジング(株)相談役
  • 著書新「いい家」が欲しい。(創英社/三省堂書店)「涼温な家」(創英社/三省堂書店)「家に何を求めるのか」(創英社/三省堂書店)